ICFはなかなか捉えどころがなく、初めて学習すると何を覚えればいいのか分かりませんが、しっかりと覚えるべきことを伝えますので安心してください。見ていきましょう。
歴史
WHO総会で採択された順番に見ていきましょう。
1900年 国際疾病分類ICD
国際疾病分類ICD(International Classification of Diseases)は、医学モデルに基づいた疾病の分類で、現在でも版を重ねて使い続けられています。
1980年 国際障害分類ICIDH
国際障害分類ICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)は、疾患が原因となって機能障害が起こり、それから能力障害が生じ、それが社会的不利を引き起こすというモデルです。
この機能障害、能力障害、社会的不利という3つの階層に分けて考えることで、例えば、仮に機能障害があっても能力障害を解決することができるし、能力障害があっても社会的不利を解決することができるという柔軟な考え方が可能になりました。
2001年 国際生活機能分類ICF
国際生活機能分類ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、障害や病気を持つ人だけでなくすべての人に適用できるモデルです。
ICIDHが障害に着目したモデルであったのに対し、ICFでは障害というマイナス面ではなく、以下のようにICIDHで用いられていた用語を言い換えて用いられています。
ICF | ICIDH |
---|---|
機能障害 | 機能・形態障害 |
活動制限 | 能力障害 |
参加制約 | 社会的不利 |
ICIDHで用いられた3つの階層構造は、さらに進んだ形でICFに引き継がれています。
ICFとICIDHの違いを見てみましょう。
健康状態としてICIDHでは疾患や外傷のみと捉えるのに対して、ICFではそれ以外にも妊娠や加齢、ストレス状態なども含めた幅広い概念になりました。
つまり、ICIDHでは障害や病気の人のみが対象だったのに対して、ICFでは全ての人が対象になったのです。
さらに、ICFでは背景因子が導入されたことも大きな変化です。
対象 | 健康状態の捉え方 | 背景因子 | |
---|---|---|---|
ICIDH | 障害や病気の人 | 疾患や外傷 | なし |
ICF | 全ての人 |
疾患や外傷、妊娠や加齢、 |
環境因子 個人因子 |
現在はICFとICDが相互補完的に用いられており、ICIDHは過去のモデルになっています。
国際生活機能分類ICF
生活機能の3要素
それでは、ここからはICFの覚え方、覚える順序を見ていきます。
ICFの「F」は「生活機能(Functioning)」です。
ICFでは、人の健康状態を決めているのは、3つの要素から構成される「生活機能」と考えます。
生活機能(Function)の3要素とは「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」です。
この3要素を確実に覚えましょう。

これはICIDHの機能障害、能力障害、社会的不利をそれぞれ言い換えたものだったね。
まずは下の図を自分で書けるようになってください。

生活機能3要素 | 意味 | レベル | 具体例 | 評価方法 |
---|---|---|---|---|
心身機能身体構造 | 身体の生理的機能 | 生物 | 身長、体重、 認知機能、麻痺など |
生理的システム、解剖学的構造の変化 |
活動 | 個人による課題や行為の遂行 | 個人 | 食事や入浴など、ADL | 能力と実行状況 |
参加 | 生活や人生場面への関わり | 社会 | 地域の集まりへの参加、結婚式への出席、コンクールへの応募など | 能力と実行状況 |
さらに、ICFでは障害(Disability)について次のように捉えています。
「機能障害」「活動制限」「参加制約」です。
この3つは、生活機能の3つの要素と以下のように対応しています。
生活機能の3つの要素を覚えていれば、それぞれが障害になったときにどうなるかを考えれば、すぐに単語は出てきます。
生活機能 | 障害 |
---|---|
心身機能・身体構造 | 機能障害 |
活動 | 活動制限 |
参加 | 参加制約 |
背景因子
3つの要素から構成される生活機能は、「環境因子」と「個人因子」の2因子と密接に関連し合っています。
環境因子
環境因子は、自宅や交通機関、自然環境のような物的環境だけでなく、家族や職場の同僚などの人的環境、そして福祉や医療などの制度的環境、さらには社会の意識や世論なども環境因子に含まれます。
環境因子は生活機能と障害への外的影響を与え、促進因子と阻害因子があります。
促進因子とはバリアフリー等のこと、逆に阻害因子は段差があって車いすが通れない等、このような環境的な状態です。
個人因子
個人因子は、年齢や性別、職業、ライフスタイルなど、その人固有の特徴で、価値観や個性、健康状況以外の個人の人生や生活の特別な背景のことです。
個人因子は生活機能と障害への内的影響を与えます。
最終的に、以下の図で完成です。自分で書けるように何度も書いて覚えましょう。

図のポイントは、健康状態が生活機能3要素(「心身機能・身体構造」「活動」「参加」)と関わっており、さらに生活機能3要素は背景因子2要素(環境因子、個人因子)と関わっているということです。
相互補完的な関係
ICFの各要素は、双方向の矢印で表現されていて、お互いが相互作用し、相互補完的に関係し合っていることを表しています。
生活機能の3つの要素も双方向的で相互補完的なので、例えば、心身機能が低下しても活動を活発化させて回復させるとか、社会参加を増やして活動を活発化させるとかで補うことができます。
過去問
第33回 問題19
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)における環境因子を表す記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer’s type)である。
2 糖尿病(diabetes mellitus)があるため服薬をしている。
3 医者嫌いである。
4 町内会の会長を務めていた。
5 娘が近隣に住み、毎日訪問している。
これは選択肢5が正解です。環境といっても物的環境だけでなく、人的環境や社会的環境もあるので注意です。
選択肢5以外は個人因子ですね。
第33回 問題87
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)の社会モデルに基づく障害のとらえ方に関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 個人の問題としてとらえる。
2 病気・外傷から直接的に生じる。
3 さまざまな環境との相互作用によって生じる。
4 治療してできるだけ回復させることを目的とする。
5 医療などによる援助を必要とする。
1 個人の問題としてとらえる。
間違いです。障害は個人だけの問題ではなく広い意味での環境も含まれます。
2 病気・外傷から直接的に生じる。
間違いです。障害は病気や外傷から直接的に生じるのではありません。
3 さまざまな環境との相互作用によって生じる。
これが正解です。
4 治療してできるだけ回復させることを目的とする。
目的はそれぞれに異なります。
5 医療などによる援助を必要とする。
必ずしも医療による援助が必要ではありません。
第30回 問題87
ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health:国際生活機能分類)の社会モデルに関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 障害は、個人の問題である。
2 障害は、病気・外傷などから直接的に生じる。
3 障害は、専門職による個別的な治療で解決する。
4 障害は、環境によって作り出されるものである。
5 障害への対処では個人のよりよい適応と行動変容が目標とされる。
先ほどの問題と似ていますね。
選択肢4が正解です。
第32回 問題19
ICF(International Classification of Functioning、Disability and Health:国際生活機能分類)の視点に基づく環境因子と心身機能の関連を表す記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 電気スタンドをつけて、読書を楽しむ。
2 車いすを使用して、美術館に行く。
3 聴力が低下すると、コミュニケーションがうまくとれない。
4 ストレスが溜まると、活力が低下する。
5 床面の性状が柔らかいと、バランスを崩す。
1 電気スタンドをつけて、読書を楽しむ。
「電気スタンド」は環境、「読書」は活動。
2 車いすを使用して、美術館に行く。
「車いす」は環境、「美術館に行く」は活動。
3 聴力が低下すると、コミュニケーションがうまくとれない。
「聴力の低下」は身体構造、「コミュニケーションがうまくとれない」は活動。
4 ストレスが溜まると、活力が低下する。
「ストレス」は健康状態、「活力の低下」は心身機能。
5 床面の性状が柔らかいと、バランスを崩す。
「床面の性状」は環境、「バランス」は心身機能。
ということで選択肢5が正解です。
第32回 問題87
ICIDH(International Classification of Impairments、Disabilities and Handicaps:国際障害分類)における能力障害として、適切なものを1つ選びなさい。
1 日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)の障害
2 運動麻痺
3 失語
4 職場復帰困難
5 経済的不利益
1 日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)の障害
これが正解、能力障害です。
2 運動麻痺
これは機能障害です。
3 失語
これは機能障害です。
4 職場復帰困難
これは社会的不利です。
5 経済的不利益
これは社会的不利です。
第31回 問題20
Gさん(68歳、女性、要介護2)は、小学校の教員として定年まで働いた。
Gさんは、3年前にアルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer’s type)と診断された。
夫は既に亡くなっており、長男(30歳)と一緒に暮らしている。週に2回通所介護(デイサービス)に通い、レクリエーションでは歌の伴奏をよくしている。
その他の日は、近所の人や民生委員、小学校の教え子たちがGさん宅を訪問し、話し相手になっている。 最近、Gさんは食事をとることを忘れていたり、トイレの場所がわからず失敗したりすることが多くなった。 介護福祉職が、Gさんの現状をアセスメント(assessment)した内容と、ICF(International Classification of Functioning、Disability and Health:国際生活機能分類)の構成要素の組合せとして、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer’s type)は、「心身機能・身体構造」にあたる。
2 レクリエーションで歌の伴奏をすることは、「参加」にあたる。
3 近所の人や民生委員、小学校の教え子は、「個人因子」にあたる。
4 小学校の教員をしていたことは、「環境因子」にあたる。
5 トイレの場所がわからなくなることは、「健康状態」にあたる。
1 アルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer’s type)は、「心身機能・身体構造」にあたる。
これは「健康状態」です。
2 レクリエーションで歌の伴奏をすることは、「参加」にあたる。
これが正解です。
3 近所の人や民生委員、小学校の教え子は、「個人因子」にあたる。
これは「環境因子」です。
4 小学校の教員をしていたことは、「環境因子」にあたる。
これは「個人因子」です。
5 トイレの場所がわからなくなることは、「健康状態」にあたる。
これは「心身機能・身体構造」です。
第31回 問題65
Gさん(79歳、男性)は認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に入居している。
短期目標を「なじみの店で買物ができる(2か月)」として、月3回の買物を計画し実施した。
初回は順調であったが、2回目にレジで後ろに並ぶ人から、「遅い、早くして」と言われて、H介護福祉職が支払った。
GさんはH介護福祉職に、「ほしい物を選んでも、自分で支払わないと買った気にならん」と言い、その後、楽しみにしていた買物に行かなくなった。
ICF(International Classification of Functioning、Disability and Health:国際生活機能分類)の視点に基づいて介護計画の内容を見直すにあたり、最も配慮すべき構成要素を1つ選びなさい。
1 身体構造
2 個人因子
3 心身機能
4 環境因子
5 活動
選択肢4が正解です。
自分でお金を払いたいという希望を叶えるために、店員や他の客、介護福祉職などの「環境因子」に配慮する必要があります。
第34回 問題20
- Gさん(70歳、男性、要介護2)は、パーキンソン病(Parkinson disease)と診断されていて、外出するときは車いすを使用している。歩行が不安定なため、週2回通所リハビリテーションを利用している。Gさんは、1年前に妻が亡くなり、息子と二人暮らしである。Gさんは社交的な性格で地域住民との交流を望んでいるが、自宅周辺は坂道や段差が多くて移動が難しく、交流ができていない。
Gさんの状況をICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)で考えた場合、参加制約の原因になっている環境因子として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 パーキンソン病(Parkinson disease)
2 不安定な歩行
3 息子と二人暮らし
4 自宅周辺の坂道や段差
5 車いす
1 パーキンソン病(Parkinson disease)
これは「健康状態」です。
2 不安定な歩行
これは「活動」です。
3 息子と二人暮らし
これは「環境因子」ですが、参加制約の原因ではありません。
4 自宅周辺の坂道や段差
これが正解、「環境因子」の参加制約です。
5 車いす
これは「環境因子」ですが、参加制約の原因ではありません。
第37回 問題49
- 次のうち、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)の社会(人生)レベルに該当するものとして、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 心身機能・身体構造
2 活動
3 参加
4 機能障害
5 活動制限
選択肢3が正解です。参加は「社会レベル(人生レベル)」と表現されます。
第37回 問題67
- ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)における「参加」と「活動」の2つが関連した、認知症の人の支援に関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 若年性アルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimer’s type with early onset)があり、治療している。
2 認知症カフェに通い、体操をしている。
3 近所に住む長男が、買物を代行している。
4 自宅にある広い庭を、バリアフリー化している。
5 見当識障害があり、GPS装置を身に着けている。
選択肢2が正解です。認知症カフェに通うのが「参加」、体操をするのが「活動」です。
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次は、リハビリテーションについて。
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