筆者は知的障害のある方の支援をしてきた経緯から、脳性麻痺の方も多く見てきました。脳性麻痺では知的障害を合併することが多く、同一視されることもありますが、脳性麻痺と知的障害は別物です。
脳性麻痺
脳性麻痺とは、運動困難と筋肉のこわばりを特徴とする症候群です。知的障害、てんかん、視覚障害、聴覚障害などを合併することも多いです。
原因
脳性麻痺の原因は以下の2種類です。
・出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形
・出生前、分娩中、出生直後などに、感染や低酸素などによって起きた脳損傷
4種類の形
脳性麻痺は以下の4種類の形があります。
痙直型(けいちょくがた)
脳性麻痺のなかでも痙直型は7割以上を占めます。
筋肉のこわばり(痙直)が体の様々な部位に生じ、四肢麻痺、両麻痺、片麻痺、対麻痺など様々なタイプがあります。
四肢麻痺で痙攣発作、嚥下障害、知的障害を伴う重症心身障害児と呼ばれるような重い形もあります。
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痙直とは筋肉がこわばることだよ。
アテトーゼ型
アテトーゼ型(不随意運動型)は脳性麻痺の約2割程度です。
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アテトーゼとは体をよじらせる不随意運動のことだよ。
腕、脚、体幹の筋肉がよじれるように動いたり突然動いたりします。このような不随意運動により椎間板や脊髄が変形することで脊柱管が狭くなって脊髄が圧迫され、頚椎症性脊髄症などの二次障害が発生することがあります。
運動失調型
運動失調型の脳性麻痺は少ないですが、歩行などの体の動きがうまく協調せず、不安定な歩行になります。
混合型
混合型は、痙直型、アテトーゼ型、運動失調型のうち2つが複合したもので、その多くが痙直型とアテトーゼ型の混合型です。
混合型の小児では、重い知的障害がみられることがあります。
過去問
第32回 問題89
痙直型や不随意運動型などの分類がある疾患として、正しいものを1つ選びなさい。
1 筋ジストロフィー(muscular dystrophy)
2 脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration)
3 脳血管疾患(cerebrovascular disease)
4 脳性麻痺(cerebral palsy)
5 脊髄損傷(spinal cord injury)
選択肢4が正解です。
第34回 総合問題4
次の事例を読んで、問題123から問題125までについて答えなさい。
〔事 例〕
Fさん(50歳、女性、障害支援区分5)は、アテトーゼ型(athetosis)の脳性麻痺(cerebral palsy)による四肢・体幹機能障害がある。居宅介護を利用し、入浴の支援を受けながら母親(79歳)と暮らしていた。Fさんは障害基礎年金1級を受給していて、Fさん名義の貯蓄がある。金銭管理は母親が行っていた。
Fさんは、3年前に誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)で入院したことがある。言語障害があり、慣れた人でないと言葉が聞き取りにくい。自宅では車いすに乗り、足で床を蹴って移動し、屋外は母親が車いすを押していた。Fさんは自宅内の移動以外の日常生活については、母親から全面的に介護を受けて生活していた。
最近、日中活動の場と短期入所(ショートステイ)の利用について、市の障害福祉課に相談するようになった。
ところが、母親が持病の心疾患(heart disease)で亡くなり、市の障害福祉課がFさんと当面の生活について検討することになった。
Fさんは1人で生活することは難しいと思い、施設入所を希望している。
問題123
- Fさんの脳性麻痺(cerebral palsy)の特徴に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 強い筋緊張から、四肢の突っ張りが強い。
2 不随意運動が生じて、運動コントロールが困難になる。
3 文字の読みの不正確さがあり、読んだ内容を理解しにくい。
4 動作は緩慢で、表情が乏しくなる。
5 着衣失行が生じる。
1 強い筋緊張から、四肢の突っ張りが強い。
これは痙直型の脳性麻痺です。
2 不随意運動が生じて、運動コントロールが困難になる。
これが正解、アテトーゼ型の脳性麻痺です。
3 文字の読みの不正確さがあり、読んだ内容を理解しにくい。
これは痙直型や混合型の脳性麻痺です。
4 動作は緩慢で、表情が乏しくなる。
これはパーキンソン病の症状です。
5 着衣失行が生じる。
これは認知症や高次脳機能障害の症状です。
問題124
- Fさんは、障害者支援施設に入所できることになり、アセスメント(assessment)が行われた。
相談支援専門員は、Fさんの希望をもとに、これまでの生活状況と身体の様子等から、もう少し本人にできることがあるのではないかと考え、「障害者支援施設で施設入所支援と生活介護を利用しながら、将来の生活を考える」という方針を立てた。また、長期目標を、「自分に適した介護を受けながら、様々な生活経験を積む」とした。
Fさんの短期目標として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 入浴時に自分でからだを洗えるようになる。
2 毎日字を書く練習を行い、筆談で会話ができるようになる。
3 施設内は、車いす介助を受けながら安全に移動する。
4 経管栄養で食事がとれるようになる。
5 日中活動として外出や興味のあるグループ活動に参加する。
選択肢5が正解です。
問題125
- 入所してから3か月が経ち、支援の見直しが行われた。
Fさんは施設生活にも慣れ、相談できる人も増えている。また、「自分でお小遣いを使えるようになりたい」と言い、外出時に必要なお金を介護福祉職と一緒に考えるようになった。将来の地域生活を考えて、社会福祉協議会の金銭管理に切り替えることが検討された。
Fさんが活用できる社会福祉協議会が行う金銭管理として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 日常生活自立支援事業
2 生活福祉資金
3 自立訓練
4 生活困窮者家計改善支援事業
5 自発的活動支援事業
社会福祉協議会が実施している金銭管理などを行う事業は、選択肢1の日常生活自立支援事業です。
第36回 総合問題3
次の事例を読んで、問題120から問題122までについて答えなさい。
〔事 例〕
Eさん(34歳、女性、障害支援区分3)は、特別支援学校の高等部を卒業後、週2回、生活介護を利用しながら自宅で生活している。Eさんはアテトーゼ型(athetosis)の脳性麻痺{のうせいまひ}(cerebral palsy)で不随意運動があり、首を振る動作が見られる。
食事は首の動きに合わせて、自助具を使って食べている。食事中は不随意運動が強く、食事が終わると、「首が痛い、しびれる」と言ってベッドに横になるときがある。
また、お茶を飲むときは取っ手つきのコップで飲んでいるが、コップを口元に運ぶまでにお茶がこぼれるようになってきた。日頃から自分のことは自分でやりたいと考えていて、お茶が上手に飲めなくなってきたことを気にしている。
Eさんは、生活介護事業所で油絵を描くことを楽しみにしている。以前から隣町の油絵教室に通い技術を高めたいと話していた。そこでEさんは、「自宅から油絵教室に通うときの介助をお願いするにはどうしたらよいか」と介護福祉職に相談した。
問題120
- Eさんの食事の様子から、今後、引き起こされる可能性が高いと考えられる二次障害として、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 変形性股関節症(coxarthrosis)
2 廃用症候群(disuse syndrome)
3 起立性低血圧(orthostatic hypotension)- 4 脊柱側弯症(scoliosis)
- 5 頚椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy)
Eさんはアテトーゼ型脳性麻痺で「首が痛い、しびれる」と訴えているので、選択肢5の頚椎症性脊髄症が二次障害として発生していると考えられます。
問題121
- Eさんがお茶を飲むときの介護福祉職の対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 吸い飲みに変更する。- 2 ストローつきコップに変更する。
- 3 重いコップに変更する。
4 コップを両手で持つように伝える。- 5 全介助を行う。
Eさんは首の不随意運動があるため、選択肢2のストローつきのコップが望ましいです。
問題122
- 介護福祉職は、Eさんが隣町の油絵教室に通うことができるようにサービスを提案したいと考えている。
次のうち、Eさんが利用するサービスとして、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 自立生活援助
2 療養介護
3 移動支援
4 自立訓練- 5 同行援護
選択肢3の移動支援が正解です。
第37回 問題105
- Cさん(58歳、男性)は、アテトーゼ型(athetosis)の脳性麻痺{のうせいまひ}(cerebral palsy)がある。腕、脚、体幹の筋肉は不随意的にゆっくりと動くことが多く、手指を細かく動かすことは難しい。言葉をはっきり発音することが困難であるが、音の聞き取りはできる。
次のうち、Cさんが使用している情報・意思疎通支援用具として、最も適切なものを1つ選びなさい。- 1 福祉電話
- 2 携帯用会話補助装置
- 3 人工喉頭
4 助聴器- 5 点字器
選択肢2の携帯用会話補助装置が正解です。携帯用会話補助装置は、文字盤の文字キーを押すことで文章を入力し、発声キーを押すことで読み上げることができます。
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次は、筋骨格系の疾患について。
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