対人援助職であれば、援助に当たって肝に銘じるべき7つの原則があります。見ていきましょう。
バイステックの7原則とは
アメリカの社会福祉学者バイステック(Biestek,F.)が提唱した「バイステックの7原則」は、対人援助における原則が示されています。
以下のように、当たり前のことが7つ並んでいますので、敢えて覚えようとする必要はありません。
過去問を見ていただければわかりますが、バイステックの7原則に関する出題は、常識的に考えれば解ける問題が多いので、一応語呂合わせも紹介しますが、あまり必要ないかと思います。
個別化の原則
個別化の原則は、クライエントの抱える課題は、クライエントそれぞれに異なるという原則です。
個別化は、クライエントを唯一無二の存在として捉えるということです。
実際の支援現場ではこの「個別化」が尊重されず、どうしても支援者が理想として思い描く「こうあるべき姿」へ誘導してしまいがちで、このようなクライエントの意思を無視して干渉していくことを「パターナリズム」といいます。
クライエントの固有の分野や多様な価値観を尊重すれば、パターナリズムに陥ることはないでしょう。
意図的な感情表出の原則
意図的な感情表出の原則は、クライエントの感情表現の自由を認める考え方です。
特にクライエントの抑圧されやすい否定的な感情を表出させることは、ワーカーの腕の見せ所です。
例えば知的障害や発達障害のある人は、自身の考えを言語化することが不得意な人も多いです。
感情が表出しやすい環境(プライバシーが守られる空間など)を整え、感情が表出しやすい面接技法を用いることが重要です(面接技法は下で取り上げています)。

ワーカーの感情表現ではなく、クライエントの感情表現だよ。
統制された情緒的関与の原則
クライエントの悩みを聞いているとワーカーが感情移入してしまい、まともな支援ができないことがあると思います。
統制された情緒的関与の原則は、そのような状態にならないよう、ワーカーが自らの感情を統制していくことの必要性を説いた原則です。
支援者は自らの感情を自覚的に捉え、その感情をコントロールしなければなりません。

ここでの情緒的関与は、クライエントではなくワーカーの情緒だよ。
受容の原則
受容の原則は、クライエントの思いを否定せず、受容することの重要性を説いた原則です。
ワーカーはクライエントに命令したり言動を否定することはNGです。
第17回の国家試験過去問には以下の内容が出題されていました。
バイステック(Biestek,F.)は、「受容」を、建設的及び破壊的な態度や行動なども含めて、クライエントをありのままの姿で受け止めることとした。
これはどう考えても間違った内容ですね。破壊的な態度や行動も含めて「容認」するのはおかしいです。
非審判的態度の原則
非審判的態度の原則は、クライエントの行動や思考に対して「ワーカーは善悪を判じない」とする考え方です。
受容の原則とも関連してきます。
自己決定の原則
自己決定の原則は、自らの行動を決定するのはクライエント自身であるとする原則です。
なのでワーカーは命令したり指示したりすることは慎まなければなりません。
下の記事では自己決定と意思決定の違いについて解説しています。
国家試験には出題されませんので興味のある方のみ、読んでみてください。

秘密保持の原則
秘密保持の原則は、クライエントの個人的情報保護やプライバシー尊重の原則です。
以上が「バイスティック7原則」の説明です。
7つの原則に分かれていますが、それぞれが深く繋がり関係しています。
バイステック7原則の語呂合わせ
い 意図的な感情表出の原則
と 統制された情緒的関与の原則
じ 受容の原則
ひ 非審判的態度の原則
じ 自己決定の原則
ひ 秘密保持の原則

バイステック7原則の覚え方は「こいとじひじひ(恋と慈悲慈悲)」
過去問
第27回 問題33
バイステック(Biestek ,F.)の7原則を介護場面に適用したときの記述として、適切なものを1つ選びなさい。
1 「個別化」とは、利用者に具体的な指示を出すことである。
2 「意図的な感情表出」とは、介護福祉職の感情表出を大切にすることである。
3 「統制された情緒的関与」とは、利用者の感情をコントロールしてかかわることである。
4 「受容」とは、利用者の同意を得ることである。
5 「非審判的態度」とは、介護福祉職の価値観で評価せずに利用者にかかわることである。
1 「個別化」とは、利用者に具体的な指示を出すことである。
間違いです。個別化とはクライエントの課題を個別的に捉え、個別的に支援することです。
2 「意図的な感情表出」とは、介護福祉職の感情表出を大切にすることである。
間違いです。介護福祉職の感情表出ではなくクライエントの感情表出です。
3 「統制された情緒的関与」とは、利用者の感情をコントロールしてかかわることである。
間違いです。利用者の感情ではなく、介護福祉職の感情をコントロールして関わることです。
4 「受容」とは、利用者の同意を得ることである。
間違いです。受容とは利用者をありのまま受け入れることです。
5 「非審判的態度」とは、介護福祉職の価値観で評価せずに利用者にかかわることである。
これが正解です。
社会福祉士 第29回 問題106
バイステック(Biestek,F.)の援助関係形成の原則に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 「自己決定の原則」は、クライエント自身や第三者に重篤な危害が及ぶことが想定される場合においても優先する。
2 「受容の原則」とは、ワーカーの個人的な価値観と一致する場合において、クライエントを受け止めることである。
3 「個別性尊重の原則」とは、他のクライエントと比較しながら、クライエントの置かれている状況を理解することである。
4 「非審判的態度の原則」とは、クライエントを一方的に非難したり、判断しないことである。
5 「統制された情緒的な関与の原則」とは、クライエント自身が自らの情緒的混乱をコントロールできるようにすることである。
1 「自己決定の原則」は、クライエント自身や第三者に重篤な危害が及ぶことが想定される場合においても優先する。
そんなわけありません。
2 「受容の原則」とは、ワーカーの個人的な価値観と一致する場合において、クライエントを受け止めることである。
ワーカーの個人的な価値観と一致する場合においてというのは明らかにおかしいです。
3 「個別性尊重の原則」とは、他のクライエントと比較しながら、クライエントの置かれている状況を理解することである。
他のクライエントと比較していては個別性を尊重したことになりません。
4 「非審判的態度の原則」とは、クライエントを一方的に非難したり、判断しないことである。
これが正解です。
5 「統制された情緒的な関与の原則」とは、クライエント自身が自らの情緒的混乱をコントロールできるようにすることである。
クライエントが情緒的混乱をコントロールするのではなく、ワーカーがコントロールするのです。
次の記事
次は、組織を運営する上でのリスクマネジメントについて学びます。
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