社会保障制度と社会保険制度
日本の社会保障制度は4層構造になっていて、その一番上には社会保険制度があります。

日本の社会保障制度の根幹である「社会保険制度」について見ていきましょう。
日本では5つの社会保険制度があります。
・年金制度
・医療保険
・雇用保険
・労災保険
・介護保険
この中でも、年金と医療保険は1961年からの国民皆保険・皆年金制度として社会保険制度の中心であり続けています。精神保健福祉士専門科目には、この中でも年金制度の障害年金と医療保険の給付内容が出題されます。
年金
日本の公的年金制度は、20歳以上の人が共通して加入する国民年金と、会社員や公務員等が加入する厚生年金の2階建てになっています。国民年金は定額の「基礎年金」で、厚生年金は基礎年金に上乗せする報酬比例年金となっています。
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以前は公務員が対象の共済年金があったけど、2015 年度から共済年金が厚生年金に統一されて両制度で異なっていた部分は厚生年金に一元化されたよ。
国民年金は全ての国民に加入義務がある「基礎年金」で、必ず以下の1~3号のどれかに該当します。基礎年金と言われるだけあって、年金制度の土台になっています。
第1号 | 20~60歳で2号3号以外の人(自営業者、学生、無職等) |
第2号 | 70歳未満の厚生年金被保険者 |
第3号 | 第2号被保険者の被扶養配偶者のうち20~60歳未満の者(年収130万円未満、妻でも夫でも可) |

第1号は20歳以上の学生も含みますので学生でも保険料の納付が必要です。

ただし学生納付特例という制度があるので納付を猶予してもらえるね。でも毎年申請が必要で、もし追納しないと将来貰える年金額が減ってしまうよ。
追納しなくても年金を受け取るのに必要な加入期間には算定されるけどね。
注意すべきはサラリーマンで厚生年金に加入している人も、国民年金の被保険者になっているということです。
第1号と第3号は20~60歳までの加入ですが、第2号はサラリーマンが厚生年金に加入しているときの同時加入なので、60歳以上でも第2号被保険者です。
第3号の保険料は第2号の保険料から拠出されます。

日本に住む外国人も国民年金に加入しなければならないよ。
老齢年金
老齢年金というのは高齢になってから受け取れる、いわゆる年金です。老齢基礎年金を受給するためには、受給資格期間として、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した期間が少なくとも 10年以上あることが必要です。
国民年金の第1号被保険者および任意加入被保険者が、希望により付加保険料(月額400円)を納付し老齢基礎年金の受給権を取得したときに老齢基礎年金に上乗せして給付を受けられる付加年金という制度があります。
老齢基礎年金は、原則として 65 歳から受け取ることができますが、受給開始を60歳まで繰上げたり、75歳まで繰下げたりすることもでき、繰上げた場合は受給額が減額され、繰下げた場合は増額されます。
老齢厚生年金は、老齢基礎年金に上乗せして支給される報酬比例年金で、子や配偶者がいる場合は加給年金としてさらに上乗せされます。
60歳以降に厚生年金保険に加入(在職)しながら受ける老齢厚生年金を在職老齢年金といい、賃金と年金額に応じて年金額の一部または全部が支給停止される場合があります。
遺族年金
遺族年金は本人が死亡したときに、その遺族が受け取れる年金です。
受け取れる家族の範囲は以下の通りです。
遺族基礎年金 | 「子のある配偶者」または「子」(18歳未満、障害児は20歳未満) |
遺族厚生年金 | 配偶者、父母、孫など(ただし子のない妻が30歳未満なら5年で消滅) |
このように遺族基礎年金を受け取れる家族はとても狭く、基本的に「子」と考えてください。
配偶者がいても「子」がいないと受け取れませんから。
それに対して遺族厚生年金は「子のない配偶者」や「祖父母」でも受け取れます。

遺族厚生年金は、30歳以上なら一生もらえるのに、30歳未満なら5年間しか受けられないんだ。しかも、これは妻のみで、夫が妻に先立たれた場合は、55歳未満だと受給できないんだ。専業主婦が一般的だったころの名残だね。この男女差の是正が進められる予定だよ。
障害年金
障害年金は一定の障害状態になったときに支給される年金です。
障害の程度によって、等級があります。
障害基礎年金 | 1級、2級 |
障害厚生年金 | 1級、2級、3級 |
障害基礎年金2級は老齢基礎年金の満額と同じ額です。
障害基礎年金1級は2級の1.25倍です。
障害基礎年金受給者(と生活保護受給者)は国民年金保険料が法定免除されます。
障害基礎年金という制度は特別な制度で、何が特別かと言うと、普通は保険制度というのは保険に加入している期間中に損害等を被った場合に支給されるものですが、障害基礎年金に限っては例外になっています。
つまり年金制度に加入できるのは20歳以上ですが、例えば先天的に障害を持っている人もいるので、そのような人は20歳になれば障害基礎年金を受給することができます。
保険料を一切払ってないのに。
障害基礎年金はこのように未拠出で受けられる年金ですが、この場合所得制限が設けられており、本人に一定の収入がある場合は全額又は半額が支給停止されます。
障害厚生年金は厚生年金に加入中に負った障害でないと支給されません。
併給について
これら3種類の年金は重複して受け取ることができません。
例えば障害を負って障害年金を受給していた人が、65歳になって老齢年金を受給するようになると障害年金はなくなります(選択できます)。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は併給可ですが、老齢基礎年金と障害基礎年金は併給出来ないということです。
を思い出してください。
障害基礎年金2級を受給していた人が老齢基礎年金をもらい始める時に、金額に差がでないようになっています。
まとめ
以下に老齢年金、遺族年金、障害年金を1つ図にまとめました。図を見れば、老齢基礎年金、遺族基礎年金、障害基礎年金は併給できないことがなんとなくわかるでしょう。

老齢基礎年金、遺族基礎年金、障害基礎年金(2級)は同じ額に揃えられていて、併給出来ない感を醸し出してるね。

医療保険
日本の医療保険制度は、国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療制度の3種類に分けられます。
国民健康保険
国民健康保険は2018年度から財政運営の責任主体は都道府県になり、市町村とともに保険者になっています。なので保険者協議会も都道府県に設置されます。市町村は引き続き保険料の徴収などを担っています。
国民健康保険は市町村国保と国民健康保険組合に分かれます。
市町村国保は一般の個人事業主が加入するものですが、国民健康保険組合は特定の業種(建設業、医師、芸術家など)が加入します。
国民健康保険組合はそれ自体が保険者です。

日本に住む外国人も国民健康保険に加入しなければならないよ。
被用者保険
被用者保険といえばサラリーマンなどが加入する健康保険ですが、2種類あります。
中小企業等では協会けんぽ、大企業等では組合健保で、協会けんぽの保険者は全国健康保険協会、組合健保の保険者は健康保険組合です。
さらに「船員保険」というものがあります。
これは船員限定の医療保険で、実はもともと1939年に「船員保険法」というのができて、これは船員のための年金、医療保険、労働保険などが含まれた手厚い制度でした。この船員保険法は年金制度としては日本初です。

戦時中の船員は貴重だったので手厚い社会保障があったよ。
この船員保険法は、1986年に年金部分が厚生年金に統合され、労災や失業保険部分も労災保険と雇用保険に移行したため、現在の医療保険のみの形として残っています。
後期高齢者医療制度
1983年からの老人保健法が2008年に全面改正され、高齢者医療確保法ができたことで後期高齢者医療制度がスタートしました。
75歳以上になると、国民健康保険等に加入していた前期高齢者は、後期高齢者医療制度に加入することになります。
また、65歳以上75歳未満の一定の障害状態にある人も対象です。
年間40兆円という国民医療費のうち、75歳以上の後期高齢者の医療費は3割を占めています。
金額にすると一人当たり年間90万円(65歳未満は年間20万円)なので、75歳以上の医療費がいかに高いかわかるでしょう。
そのために後期高齢者医療制度をスタートさせ、税源の1割を保険料で賄うようになったのです。

それまでの老人保健法では財源に後期高齢者の保険料は拠出されてなかったんだ。
医療保険の給付内容
様々な医療保険制度を見てきましたが、どの医療保険に入っていても基本的に受けられる以下の給付は同じです。見ていきましょう。
第五十二条 被保険者に係るこの法律による保険給付は、次のとおりとする。
一 療養の給付並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費及び移送費の支給
二 傷病手当金の支給
三 埋葬料の支給
四 出産育児一時金の支給
五 出産手当金の支給
六 家族療養費、家族訪問看護療養費及び家族移送費の支給
七 家族埋葬料の支給
八 家族出産育児一時金の支給
九 高額療養費及び高額介護合算療養費の支給
療養の給付
我々が最も身近に感じる医療保険の制度はこれですね。
上で挙げたように医療保険には様々な種類がありますが、どれに加入しても療養給付を受けられます。
通院した時に医療費の自己負担額1~3割がありますが、この程度の支払いで済んでいるのは医療保険からの療養給付があるからです。
~小学校入学前:2割
~70歳まで:3割
~75歳まで:2割(現役並所得者は3割)
75歳以上:1割~2割(現役並所得者は3割)

高額療養費制度
療養給付で負担が抑えられている医療費ですが、それでも何度も通院したり大きな手術などをすると高額になってしまいます。
そんなときに、一定期間内に一定額以上となった医療費を返金する仕組みが高額療養費制度です。

グラフを見て分かるように、所得によって自己負担限度額が決められており、例えば年収330万円未満の人であれば、医療費がいくらかかっても約6万円を超えた分は戻ってきます。
年収が1160万円以上の人は、300万円の医療費がかかったら自己負担限度額は27万円程度ですね。
上のグラフは70歳未満の場合で、70歳以上の場合は別のグラフになります。
つまり、自己負担限度額は収入と年齢の2点で決められているということです。
1カ月間にかかった医療費が合算でき、さらに同居していなくても扶養関係にあれば世帯で合算できます。
ただし別の医療保険同士での合算はできません。
請求は2年で時効になります。
医療の現物給付が可能になり、窓口でいったん全額を建て替える必要がなくなりました。

高額療養費制度は1973年の福祉元年に創設されたんだったね。当時は月3万円を超える自己負担分を医療保険制度から支給する仕組みだったよ。
傷病手当金
傷病手当金は、普段生活をしていてケガをして働けなくなった場合、その日から4日目以降に給与の2/3程度(67%)が支給される手当です。
最長で1年6カ月支給されます(途中で退職しても支給されます)。
この期間は障害年金の初診日から障害認定日までの期間と一致します。
つまり障害を負って働けなくなった時、1年6カ月は傷病手当金、その後は障害年金を受給というケースを想定したものです。
勤務中に負ったケガなどは労災保険なので傷病手当金はもらえません。
出産手当金と出産育児一時金
出産育児一時金は医療保険の被保険者本人と被扶養者の出産の際に50万円支給される一時金です。
健康保険の被保険者が出産した場合は出産育児一時金。
健康保険の被扶養者が出産した場合は、家族出産育児一時金。
出産手当金は被保険者が出産して産前産後(出産前42日、出産後56日を限度として)に仕事ができなかったために給料がもらえない場合に標準報酬月額の2/3程度が支給されます。
出産育児一時金と出産手当金は併給できます。

入院時食事療養費&入院時生活療養費
入院時の食事代は、食事療養標準負担額を患者が負担し、残りを入院時食事療養費として健康保険が負担します。ただし、65歳以上で療養病床に入院した場合は、食事代・居住費(光熱水費)について、生活療養標準負担額を患者が負担し、残りを入院時生活療養費として健康保険が負担します。
雇用保険
雇用保険といえば失業したときにもらえる失業給付(基本手当)を思い浮かべる人が多いかと思いますが、それ以外にも様々な給付があります。
育児で休業した時にもらえる「育児休業給付」や介護休業の時にもらえる「介護休業給付」も雇用保険による給付です。
国家資格取得のための養成校に通う費用の助成は「教育訓練給付」という雇用保険による給付です。
詳しく見てみると雇用保険には大きく分けて2種類の事業があります。
「失業等給付等」と「雇用保険二事業」です。

失業等給付等は「失業等給付」と「育児休業給付」に分けられます。

失業等給付等って「等」が2回もでてきて変な名前だな。
雇用保険のメインは下の「失業等給付」で以下の4つの給付で構成されています。
求職者給付:失業したときにもらえる失業手当
雇用継続給付:介護休業給付など
教育訓練給付:資格取得のための受講費用などの助成
就職促進給付:失業手当受給中に就職が決まった場合の手当
もう1つ「雇用保険二事業」というのがありますが、これは「雇用安定事業」と「能力開発事業」になります。
労災保険
業務災害給付、通勤災害給付、二次健康診断給付の3種類あります。
・療養補償給付
・休業補償給付
・障害補償給付
・遺族補償給付
・介護補償給付
・傷病補償年金
・療養給付
・休業給付
・障害給付
・遺族給付
・介護給付
・傷病年金
このように、勤務中や通勤中にケガをしたり障害を負ったり、それが原因で休業したり介護状態になったりしたときに支給される給付があるのが分かると思います。
「〇〇補償給付」というのが勤務中の災害、「〇〇給付」というのが通勤中の災害に対する給付です。

介護保険
介護保険制度は重要なので、別記事で取り上げます。
過去問
33回 問題70
医療や福祉の法律での年齢に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 35歳の人は、老人福祉施設に入所できる。
2 50歳の人は、介護保険の第一号被保険者である。
3 60歳の人は、医療保険の前期高齢者である。
4 70歳の人は、介護保険の第二号被保険者である。
5 75歳の人は、後期高齢者医療の被保険者である。
1 35歳の人は、老人福祉施設に入所できる。
間違いです。老人福祉施設というのが介護保険法で規定される「介護老人福祉施設」だとすれば、以下のいずれかの方が利用できます。
・65歳以上で要介護状態または要支援状態
・40歳以上で要介護状態または要支援状態になった理由が加齢に伴って生じる特定疾病
2 50歳の人は、介護保険の第一号被保険者である。
間違いです。第一号被保険者は65歳以上です。
3 60歳の人は、医療保険の前期高齢者である。
間違いです。前期高齢者は65歳以上75歳未満です。
4 70歳の人は、介護保険の第二号被保険者である。
間違いです。介護保険の第二号は40歳からです。
5 75歳の人は、後期高齢者医療の被保険者である。
これが正解です。
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