福祉避難所とは何か、要配慮者と避難行動要支援者の違いは何か、理解しましょう。
災害対策基本法
災害対策基本法は、1959年の伊勢湾台風をきっかけに、1961年に制定されました。
要配慮者&避難行動要支援者
第49条の十 市町村長は、当該市町村に居住する要配慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であつて、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの(避難行動要支援者)の把握に努めるとともに、地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者について避難の支援、安否の確認その他の避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために必要な措置を実施するための基礎とする名簿(避難行動要支援者名簿)を作成しておかなければならない。
高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者を要配慮者と規定し、そのうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であつて、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者を避難行動要支援者と規定し、「避難行動要支援者名簿」の作成が義務づけられています。
この名簿は「市町村長は、災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、消防機関、都道府県警察、民生委員、市町村社会福祉協議会、自主防災組織その他の避難支援等の実施に携わる関係者に対し、名簿情報を提供するものとする」。ただし、「町村の条例に特別の定めがある場合を除き、本人の同意が得られない場合は、この限りでない。」とされています。
災害対策基本法について出題された選択肢を、一問一答形式で学んでいきましょう。
個別避難計画
第49条の十四 市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、名簿情報に係る避難行動要支援者ごとに、当該避難行動要支援者について避難支援等を実施するための計画(個別避難計画)を作成するよう努めなければならない。ただし、個別避難計画を作成することについて当該避難行動要支援者の同意が得られない場合は、この限りでない。

この個別避難計画の作成が自治体ではなかなか進んでいないんだよー。努力義務だからね~
避難行動の基本は「立退き避難」です。これは自らが居る建物から離れ避難するという意味で「水平避難」と呼ばれる場合もあれば、浸水から身を守るため上の方に避難するという意味で「垂直避難」と呼ばれる場合もあります。
福祉避難所
1995年の阪神大震災では、障害者や高齢者に配慮した避難所がなく、多くの福祉施設がそのための避難所となりました。
これが原型となり、福祉避難所という言葉が用いられるようになりました。
このときには実際の震災ではなく「震災関連死」が多かったことをキッカケに、重度の障害者や高齢者などの「災害弱者=災害時要援護者」という用語も用いられるようになっていきます。

震災関連死というのは、震災によって介護が必要な人に支援が届かず亡くなるとかだね。
「災害時要援護者」という用語は、2013年の災害対策基本法の改正から「要配慮者」「避難行動要支援者」と呼ばれるようになりました。
高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する人を「要配慮者」と呼び、そのうち災害が発生した時に自ら避難することが困難な人を「避難行動要支援者」ということになりました。
福祉避難所が初めて開設されたのは2004年の中越地震でした。
しかし、このときはほとんど機能せず、避難所に入れない人が車中で暮らしエコノミークラス症候群になるなどの問題が発生したようです。
2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では自治体と福祉避難所の協定を結んでいる福祉施設だけでなく、無事だった事業所の多くが福祉避難所になったそうです。
協定を結んでいても福祉避難所として機能しなかった事例も多く、現実に災害が起これば職員も被災していて人手が足りず福祉避難所を開設できないことも多いようですから。
福祉避難所の基準
内閣府の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(内閣府)によると、以下のように規定されています。
「主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(要配慮者)を滞在させることが想定されるものにあつては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること。」(災害対策基本法施行令第20条の6第5号)
・高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(要配慮者)の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること。
・災害が発生した場合において要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること。
・災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること。
福祉避難所の利用対象
身体等の状況が特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等へ入所するには至らない程度の者であって、避難所での生活において、特別な配慮を要する者であること。具体的には、高齢者、障害者の他、妊産婦、乳幼児、病弱者等避難所での生活に支障をきたすため、避難所生活において何らかの特別な配慮を必要とする者、及びその家族まで含めて差し支えない。なお、特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等の入所対象者はそれぞれ緊急入所等を含め、当該施設で適切に対応されるべきであるため、原則として福祉避難所の対象者とはしていない。(出典:災害救助法 運用と実務 第一法規 平成26年 304頁)上記を原則としつつも、地域や被災者の被災状況に応じて、さらに避難生活中の状態等の変化に留意し、必要に応じて適切に対処する必要がある。なお、災害時における要配慮者を含む被災者の避難生活場所については、在宅での避難生活、一般の避難所での生活、福祉避難所での生活、緊急的に入所(緊急入所)等が考えられる。
つまり、福祉避難所は要配慮者が利用するもので、一般の被災者の利用は想定されていません。
ただし、要配慮者の家族の利用は想定されています。
また、特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等の入所対象者はそれぞれ緊急入所等を含め、当該施設で適切に対応されるべきであるため、原則として福祉避難所の対象者ではありません。
災害時派遣チーム
災害時に一般避難所や福祉避難所に派遣される医療福祉系チームには以下のような種類があります。
DCAT(Disaster Care Assistance Team):災害派遣介護チーム
DMAT(Disaster Medical Assistance Team):災害派遣医療チーム
DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team):災害派遣精神医療チーム

ディーワット、ディーキャット、ディーマット、ディーパットと読んでね。
DWATとDCATは福祉チーム、DMATとDPATは医療チームだね。
DMATはよく知られてるけど、その福祉版としてできたのがDWATだよ。
災害派遣福祉チームDWAT
災害派遣福祉チームDWAT(Disaster Welfare Assistance Team)は、災害時に被災地域に入り、一般避難所や福祉避難所で要配慮者等に対し福祉支援を行う専門職チームです。
派遣されたチームは、避難者等の福祉ニーズの把握やスクリーニング、福祉避難所への誘導、日常生活上の支援、各種相談対応、環境整備などを実施します。
災害派遣介護チームDCAT(Disaster Care Assistance Team)は、DWATとほぼ同じ意味で、都道府県ごとに呼び方が違うだけです。
「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」によると以下のように規定されています。
各都道府県は、一般避難所で災害時要配慮者に対する福祉支援を行う災害派遣福祉チームを組成するとともに、一般避難所へこれを派遣すること等により、必要な支援体制を確保することを目的として、都道府県、社会福祉協議会や社会福祉施設等関係団体などの官民協働による「災害福祉支援ネットワーク」を構築するものとする。
なお、ネットワークは、都道府県を中心に、政令指定都市、中核市を含め、管内市区町村の協力を得て、可能な限り一元的な都道府県内のネットワークの構築を図るものとする。

熊本の震災の時は、他府県からのDWATが集まったね。
災害派遣医療チームDMAT
災害派遣医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Team)は、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成されます。
DMATに登録している医療従事者は、DMATの研修を受けて資格を保有しており、普段は「DMAT指定医療機関」で医師や看護師として働いています。大規模な災害時や該当している自治体での災害や事故の際にDMATとして招集され、現場での活動をします。
厚生労働省の「日本DMAT」と、都道府県ごとに発足している「都道府県DMAT」があります。
災害派遣精神医療チームDPAT
災害派遣精神医療チームDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)は、災害時に被災地域に入り、精神科医療および精神保健活動の支援を行う専門的なチームで、都道府県や政令指定都市によって組織される専門的な研修を受けたチームです。

DMATは医療全般、DPATは精神医療に特化したチームだよ。
過去問
第36回 問題16
- 災害時の福祉避難所に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
1 介護老人福祉施設の入所者は、原則として福祉避難所の対象外である。
2 介護保険法に基づいて指定される避難所である。
3 医療的ケアを必要とする者は対象にならない。
4 訪問介護員(ホームヘルパー)が、災害対策基本法に基づいて派遣される。
5 同行援護のヘルパーが、災害救助法に基づいて派遣される。
1 介護老人福祉施設の入所者は、原則として福祉避難所の対象外である。
これが正解です。介護老人福祉施設などの施設入所者は、当該施設で適切に対応されるべきであるため、原則として福祉避難所の対象者ではありません。
2 介護保険法に基づいて指定される避難所である。
誤りです。福祉避難所は災害対策基本法に基づいて指定されます。
3 医療的ケアを必要とする者は対象にならない。
誤りです。対象は医療的ケアを必要とする者、妊産婦、傷病者、内部障害者、難病患者等です。
4 訪問介護員(ホームヘルパー)が、災害対策基本法に基づいて派遣される。
誤りです。ヘルパーの派遣は福祉各法による実施が想定されており、災害対策基本法における派遣は想定されていません。
5 同行援護のヘルパーが、災害救助法に基づいて派遣される。
誤りです。ヘルパーの派遣は福祉各法による実施が想定されており、災害救助法における派遣は想定されていません。
第36回 問題71
- 3階建て介護老人福祉施設がある住宅地に、洪水・内水氾濫の図記号マークに関連した警戒レベル3が発令された。介護福祉職がとるべき行動として、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 玄関のドアを開けたままにする。
2 消火器で、初期消火する。
3 垂直避難誘導をする。
4 利用者家族に安否情報を連絡する。- 5 転倒の危険性があるものを固定する。

問題の記号は洪水・内水氾濫を示す災害種別避難誘導標識システムに用いられます。警戒レベルは以下の5段階あり、
・警戒レベル1(早期注意情報)
・警戒レベル2(大雨・洪水・高潮注意報)
・警戒レベル3(高齢者等避難)
・警戒レベル4(避難指示)
・警戒レベル5(緊急安全確保)
となっており、レベル3の場合は高齢者等避難を発令する目安となるため、介護福祉職は高齢者の避難誘導をしなければなりません。避難行動の基本は「立退き避難」であり、浸水から身を守るため上の方に避難するという意味で「垂直避難」と呼ばれますので、選択肢3の垂直避難誘導が正解です。
社会福祉士 第31回 問題25
「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(内閣府)に基づく、災害時の福祉ニーズへの対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 福祉避難所に避難してきた「要配慮者」は、原則として病院に移送する。
2 福祉避難所には、ボランティアを配置せず、専門的人材を配置することとされている。
3 「要配慮者」への在宅福祉サービスの提供は、福祉避難所への避難中は停止する。
4 福祉避難所は、一般の避難所と同じ敷地内に開設することが必要とされている。
5 福祉避難所での速やかな対応を実現するために、平常時から「要配慮者」に関する情報の管理や共有を整備しておく。
(注)「要配慮者」とは、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者をいう。
1 福祉避難所に避難してきた「要配慮者」は、原則として病院に移送する。
間違いです。
「要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されていること」とされています。
2 福祉避難所には、ボランティアを配置せず、専門的人材を配置することとされている。
間違いです。
市町村に対して、「ボランティアの受け入れ方針について検討しておく」ことを求めています。
3 「要配慮者」への在宅福祉サービスの提供は、福祉避難所への避難中は停止する。
間違いです。
「要配慮者に対して必要な福祉サービスを提供する」とされています。
4 福祉避難所は、一般の避難所と同じ敷地内に開設することが必要とされている。
間違いです。
要配慮者が避難可能な施設等が福祉避難所になりますから、一般の避難所と同じ敷地内である必要はありません。
5 福祉避難所での速やかな対応を実現するために、平常時から「要配慮者」に関する情報の管理や共有を整備しておく。
これが正解です。
第37回 問題72
- 介護保険施設における防災対策に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 介護福祉士は、災害派遣福祉チームで活動することが義務づけられている。
2 介護福祉士は、防災スキル向上のために、防災士の資格取得が義務づけられている。
3 災害対策基本法に基づき、個別避難計画の作成が施設長に義務づけられている。
4 一般的に、飲料水と非常食は1日分の備蓄が義務づけられている。
5 災害時等に備えて、業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定が義務づけられている。
1 介護福祉士は、災害派遣福祉チームで活動することが義務づけられている。
誤りです。災害派遣福祉チームはDWATと呼ばれますが、このような義務規定はありません。
2 介護福祉士は、防災スキル向上のために、防災士の資格取得が義務づけられている。
誤りです。介護福祉士にこのような義務規定はありません。
3 災害対策基本法に基づき、個別避難計画の作成が施設長に義務づけられている。
誤りです。個別避難計画の作成は市町村の努力義務となっています。
4 一般的に、飲料水と非常食は1日分の備蓄が義務づけられている。
誤りです。このような義務規定はありませんし、1日分の備蓄では不十分です。
5 災害時等に備えて、業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定が義務づけられている。
これが正解です。2021年の介護報酬改定で努力義務となっていた福祉施設でのBCP策定が、2024年4月から義務化されました。
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次は、介護福祉士国家試験に出題される白書や統計類をまとめました。
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