人間は生まれてから死ぬまでに、どのような発達段階と成長過程を経ていくのでしょう。
エリクソンとピアジェの発達段階を中心に見ていきましょう。
エリクソンの発達理論
エリクソン(Erikson,E.)はライフサイクルを8段階に分け、それぞれの段階で発達課題を設定しています。そしてこの発達課題をクリアできなかった時に訪れる危機を「心理社会的危機」と呼んでいます。

エリクソンは「アイデンティティ」や「モラトリアム」といった概念を提唱しているよ。このあたりのキーワードに注目して見ていってね。
乳児期(0~1歳)
心理社会的危機:不信
乳児期は、母親との関係を通じて、自分をとりまく社会が信頼できることを感じる段階です。この基本的信頼が得られないと「不信」という危機が訪れます。
幼児期前期(1~3歳)
心理社会的危機:恥・疑惑
幼児期前期は、しつけを通して自分を律することを学ぶ段階です。この自律性が身につかないと「恥・疑惑」という危機が訪れます。
幼児期後期(3~6歳)
心理社会的危機:罪悪感
幼児期後期は、自発的に行動することを通して社会に関与していく主体性を学ぶ段階です。自発性の獲得に失敗すると、「罪悪感」という危機が訪れます。
児童期(7~11歳)
心理社会的危機:劣等感
児童期は、学校や家庭での活動などを通して努力を覚え、勤勉性を養う段階です。勤勉性の獲得に失敗すると、「劣等感」を覚えます。
青年期(12~20歳)
心理社会的危機:アイデンティティの混乱
青年期は、身体的・精神的に自己を統合し、「アイデンティティ」を確立する段階です。この青年期を通じて「忠誠(fidelity)」という人としての強さや徳が獲得されると考えました。

アイデンティティの確立を先延ばしにしている期間を「モラトリアム」というよ。エリクソンは、青年期から成人期に移行する期間を「モラトリアム」と定義しているよ。
成人期初期(20~30歳)
心理社会的危機:孤独
成人期初期は、結婚や家族の形成などによる親密な人間関係を築き、連帯感を獲得する段階です。親密な人間関係を築くことに失敗すると「孤独」が待っています。
成人期(30~65歳)
心理社会的危機:停滞
成人期は、家庭での子育てや社会の仕事を通して、次の世代を育てていく段階です。うまくいかないと「停滞」に陥ります。
老年期(65歳~)
心理社会的危機:絶望・嫌悪
老年期の発達課題は自己統合感です。これまでの自分の人生の意味や価値、新しい方向性を見出す段階です。失敗すると絶望や嫌悪が待っています。
エリクソンまとめ
年齢 | ライフサイクル | 発達課題 | 心理社会的危機 | 獲得できる力 |
---|---|---|---|---|
0~1歳 | 乳児期 | 信頼感 | 不信 | 希望 |
1~3歳 | 幼児期前期 | 自律性 | 恥・疑惑 | 意欲、意思 |
3~6歳 | 幼児期後期 | 自発性、積極性 | 罪悪感 | 目的意識 |
7~11歳 | 児童期 | 勤勉性 | 劣等感 | 有能感 |
12~20歳 | 青年期 | アイデンティティ | アイデンティティの混乱 | 忠誠心 |
20~30歳 | 成人期初期 | 親密性 | 孤独、孤立 | 愛 |
30~65歳 | 成人期 | 生殖性 | 停滞 | 世話 |
65歳~ | 老年期 | 自己統合感 | 絶望・嫌悪 | 賢さ、英知 |
ピアジェの発達理論
ピアジェ(Plaget,J.)は4つの発達段階に分けて、その特徴をまとめています。
乳児期(0~1歳):感覚運動期
感覚運動期では、「対象の永続性」を獲得します。
対象の永続性とは、例えば母親が視界から消えても永遠にいなくなってしまったわけではないというようなこと、それを理解する段階です。
幼児期(1~6歳):前操作期
前操作期の特徴は自己中心性です。
自己中心性は、大人のいわゆる「ジコチュウ」とは違って、自分視点でしかモノを見る事が出来ない利己的でない自己中心性のことです。
保存性の未発達やアニミズム的思考もその例です。

保存性の未発達とは、例えばコップの水を細長いコップに移すと増えたように感じる、とかだね。
つまり自分視点でしか考えられないわけだね。
児童期(7~11歳):具体的操作期
具体的操作期は「保存性獲得」、「脱自己中心性」が特徴です。
青年期(12~20歳):形式的操作期
形式的操作期は、論理的思考ができるようになります。
ピアジェまとめ
年齢 | ライフサイクル | 発達段階 |
---|---|---|
0~2歳 | 感覚運動期 | 対象の永続性 |
2~7歳 | 前操作期 | 自己中心性、保存性未発達、アニミズム的思考 |
7~11歳 | 具体的操作期 | 保存性獲得、脱自己中心性 |
11歳~ | 形式的操作期 | 抽象的思考 |
エリクソンとピアジェの発達理論の比較
エリクソンの発達段階の名称や年齢幅は文献によって少し異なることがありますが、重要なのは青年期です。この時期の発達課題は「アイデンティティの確立」で、自分探しの時期です。近年では、青年期の学生時代が長くなり、アイデンティティの確立を先延ばし(モラトリアム)にできるようになりましたが、遅かれ早かれ成長過程で直面する課題です。自尊感情(セルフエスティーム)の獲得につながる重要な課題になります。

モラトリアム人間というとマイナスイメージがあるけど、エリクソンはモラトリアムの時期をマイナスには捉えていないんだよ。
過去問
第27回 問題69
A君は、積み木を飛行機に見立ててB君と遊んでいた。大人がA君とB君の目の前で、おやつのジュースを一人150mlずつになるように計った。しかし、同じ大きさのコップがなかったので、それぞれ形の違うコップに入れて与えた。A君にジュースを入れたコップを渡したところ、A君は「B君のほうが量が多い」と言って泣き出した。
ピアジェ(Piaget,J.)によるA君の認知発達段階として、適切なものを1つ選びなさい。1 形式的操作期2 感覚運動期3 前操作期4 再接近期5 具体的操作期
A君は自己中心性があり保存性が未発達であることから、選択肢3の前操作期が正解です。
第28回 問題69
エリクソン(Erikson, E.)の発達段階説に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。1 誕生から1歳頃までは、自分の行動のコントロールを身につける段階である。2 3歳頃から6歳頃までは、自発的行動を通して主体性の感覚を学ぶ段階である。3 12歳頃から20歳頃までは、勤勉性を身につける段階である。4 20歳頃から30歳頃までは、心身共に自分らしさを身につける段階である。5 30歳頃から60歳頃までは、社会全体や他者への信頼感を持つ段階である。
1 誕生から1歳頃までは、自分の行動のコントロールを身につける段階である。
誤りです。誕生から1歳頃までは、母親との関係を通じて、自分をとりまく社会が信頼できることを感じる段階です
2 3歳頃から6歳頃までは、自発的行動を通して主体性の感覚を学ぶ段階である。
これが正解です。
3 12歳頃から20歳頃までは、勤勉性を身につける段階である。
誤りです。勤勉性を身につけるのは7~11歳頃の児童期です。
4 20歳頃から30歳頃までは、心身共に自分らしさを身につける段階である。
誤りです。アイデンティティを確立するのは12~20歳頃の青年期です。
5 30歳頃から60歳頃までは、社会全体や他者への信頼感を持つ段階である。
誤りです。信頼感を獲得するのは誕生から1歳頃までの乳児期です。
第29回 問題69
エリクソン(Erikson,E.)の発達段階説において、青年期の発達課題として、正しいものを1つ選びなさい。
1 生殖性の獲得
2 信頼感の獲得
3 同一性の獲得
4 自発性の獲得
5 親密性の獲得
1 生殖性の獲得
これは成人期の発達課題です。
2 信頼感の獲得
これは乳児期の発達課題です。
3 同一性の獲得
これが正解、青年期の発達課題です。
4 自発性の獲得
これは幼児期後期の発達課題です。
5 親密性の獲得
これは成人期初期の発達課題です。
次の記事
次は、道徳性の発達理論です。
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